喜歌劇「こうもり」演奏会に向けた対談シリーズ第2弾。
今回はトラオム祝祭管弦楽団代表の吉川・総監督の米本に、演奏会に向けた稽古の裏側や本番への意気込みを伺いました!
はじまりの物語
米本 なんで「こうもり」になったのかという話から始めますか。
吉川 今回の演奏会ではオペラにチャレンジしたいっていうのが始まりだったね。
第1回演奏会の「夏の夜の夢」みたいな劇付随音楽という形式の作品が「エグモント」とか「ペール・ギュント」ぐらいしかないから、第3回演奏会の「ヘンゼルとグレーテル」ではオペラの作品をセミステージ形式でやるっていうスタイルをとったんだよね。
米本 そうそう。今回もセミオペラ形式の演奏会にしたいと思って、作品選びに着手したね。イタリアオペラも候補に挙がったけど、悲劇が多いので選択肢から外れていったよね。これまでの演奏会は「夏の夜の夢」、「ヘンゼルとグレーテル」ともにファンタジーだったなかで、次は悲劇にするのかという話になり……
吉川 トラオムのカラーに合うのかって話になって却下したんだよね。
米本 それで選択肢としては、ファンタジーオペラか、喜歌劇が残ったね。
吉川 ドニゼッティみたいな古典喜歌劇っていう選択肢もあったけど、オケ主催の演奏会だから、もう少しオケに華がある作品が良いよねって話になって、行き着いたのが「こうもり」。
米本 ドイツ系のオペラだとまず序曲があるからね。オケにも華を持たせられる!
吉川 けど、「こうもり」をやるにあたってのハードルが、今までは女性キャストとしか共演してなかったこと。
「ヘンゼルとグレーテル」も本当はパパ役が必要だったけど、パパ役を用意しないとかそういうやり方をしてきた中で、「こうもり」は男性キャストが必ず必要っていうのが一つのハードルだった。そんななか、まずファルケ役の野々山さんが快く引き受けてくれて、そこから動き出したね。
米本 うん。野々山さんのお声がけで、びっくりするような素晴らしいキャストが揃ったね。
米本 実は、当初はブリント弁護士とかイーダは最悪キャストがいなくても何とかしようっていう話もあったよね。
吉川 そう、ブリント弁護士がいないなら、アイゼンシュタインとブリント弁護士が口論する場面(No.2)はカットして……って思っていたけど、キャストの皆様の横のつながりのおかげでフルキャストをそろえることができたね!
米本 絶対ブリント弁護士いた方が良かったよね。3幕で、ブリント弁護士から衣装を奪って変装をしたアイゼンシュタインがロザリンデとアルフレードを問い詰める場面(No.15)とかちょっと物語が分かりにくいから。それに、No.2も楽しい曲だし(笑)
吉川 「こうもり」って面白いけどストーリーが初見で話が分かりにくいじゃん。
それでも初見の人が全部理解できる演奏会にしたいと思ってるから、歌はドイツ語だけど字幕も入れるし、キャストは揃えるし、なるべく衣装とか道具も有りでやりたい……って言って大変な思いしてるけど(笑)
米本 歌手が10人もいて、オペラをノーカットで演奏できるなんてアマオケだとかなり貴重だと思うし、トラオムの演奏会の中でも間違いなく今までで一番大規模だよね。
苦労したこと
吉川 こうして、練習を開始できるようになったわけだけど、練習ではどんなことに苦労した?
米本 まず、オケの練習は7月からで、その前にキャストとの練習を2回やったね。だけど、もうその時点で「これは大変だ」ってなった(笑)
今回、僕は音源を一切聴かずに、本当に譜読みをちゃんとしてキャストさんとの稽古に臨んだけど、その時点で、「おお、これは大変だ」ってなって(笑)
「こうもり」には慣例がいっぱいあるんだよね。楽譜だけ読んで臨んだから、フェルマータが書いてないけど「ここは慣例でフェルマータするんだ」とか、楽譜にはこう書いてあるけど慣例では楽譜を守らずにこう演奏するんだ、みたいなことが決まっていて。
吉川 でも、それをキャストの先生たちが、今までのご経験で「ここ、大体こうするよ」とか「経験的にこうした方がいい」と教えてくれたのがすごく助かったね。
米本 うん。アイゼンシュタイン役の大久保さんは指揮も振る方だから、指揮の振り方まで「ここ、こうするといいよ」ってアドバイスを下さって、本当に助けられた。
で、次はオケだけの練習の時に慣例を共有しないといけなくて大変だった。なんとかオケだけでは一応通るっていう状態にするまでがまず大変!
オケだけで通るようになっても、次に歌手と合わせる日になると呼吸感がオケと歌で違うから全然合わなくて……。11月の初回歌合せでは、オケと歌で呼吸感が違うってことを如実に感じた。オケは普段、声楽と一緒に演奏するなんてことがほとんどないから、歌と呼吸感を合わせるっていうのが、難しいなって思っている。本番までにちゃんと形にしたいところだね。
吉川 そうだね。
米本 でも、普段は合わせることのない声楽と一緒に稽古するということが、オケにとってすごく勉強になっていると思う。指揮者からの指示で「歌って」とか「歌心を持ってやろうよ」とか言うけど、歌と一緒に稽古してると「歌う」のイメージがつきやすい。だってそこで歌を歌ってる人がいるからね(笑)。
歌うべきメロディーは、自然に歌う通りに演奏すればいいんだけど、オケはついつい楽器の技巧に気を取られちゃうから、本来の歌い方とか、自然な呼吸とかを忘れがちになるんだよね。でも、オペラの練習で歌と一緒にやることによって歌い方・呼吸の取り方を思い出させてくれるし、音楽を表現するということの原点に戻らせてくれる経験になる。
だから、今後トラオムでオケだけの曲、例えばベートーヴェンの交響曲をやりましょうってなったときに、今回、歌との稽古を通して勉強したことが糧になってくると思うよ。
吉川 そうだね。あと、歌い方の答えが元々歌詞として書いてあるっていうのは大きいよね。
交響曲をやるときは、どういう風に歌おうかなとか、どこに山を持ってこようかなとか、みんなで一から考えるところでスタートするけど、オペラならここってこういう場面でどういう感情だからこう演奏するという明確な答えがあるよね。例えば2幕フィナーレだと「Du」っていう単語が大事だから「Duって呼びましょう」の部分が頂点ですよねって、歌詞から読み取ることができる。まあ、それが大変なんだけど、やりやすさの一つではある。
こういう歌心のような感覚的なものって、みんなが知ってる曲や何回か弾いたことがある曲は阿吽の呼吸で統率が取れているものすごく多いじゃない?例えば、ドヴォルザークの8番をやったら「ここは大体こう」ってみんなが知ってる……みたいな。
今回、序曲はそういうのがあるかもしれないけど、本編の曲ってなるとそうはいかないので、しっかり指揮を見たりアンサンブルをすることが必要になる。で、そのためには楽譜がある程度頭に入っていて周りを見渡せる注意力になっていないといけないけれど、オケの奏者だとなかなか覚えられない部分もあると思う。
米本 それを練習の回数でカバーをしたのが今回の稽古。1日の練習の中でなるべく大体の曲をサラッと通したし、楽譜として覚えづらかったところ、曲として覚えにくいところは反復したよね。
吉川 だからそうやって、ちょっとでも多くの人が指揮を気にする余裕を作れるようにできたんじゃないかなって思う。
米本 本当に最近は指揮への反応がすごく良くて、僕がミスるとオケも崩れるみたいなこともあるし(笑)、逆に指揮がうまく振れるとそれにしっかり応えてくれる楽団の状態になってきてると思う。
本番に向けて
米本 じゃあ、最後に本番に向けて。
次の稽古で、芝居を含めた全通しを予定しているけど、お客さんだけでなく、演奏する我々自身も楽しめる演奏会だということを確認する機会にしたいと思ってる。もちろんお客さんを楽しませたいというのもあるけど、オケの奏者自身も楽しむきっかけになればと思うんだよね。
吉川 全通しで火がついて、「やっぱり『こうもり』って楽しいな」というエネルギーを本番まで保っていけるような準備を、僕らはしていきたいと思うよね。
米本 そうだね。オケの皆さんはまだ全体像を知らないので、どこにどんなセリフが入るのか、どんな演出が待っているのかを新鮮な目線で楽しんでほしい。僕らは準備をしてきて、「これは絶対面白いぞ」と考えながらやってきたけど。
吉川 全通しには入りきらないもの、例えば照明だったりとか、そういうのもあるよね。そこは本番にしかない緊張感や、本番ならではの楽しみとして取っておく感じだね。
米本 たしかに、照明が入ったらどうなるのかとかは僕らも知らないもんね。
吉川 トラオムの理念である「ホールを”夢”で包みたい」という思いが形になればいいね。
米本 今回は、夢というよりはハラハラドキドキで包み込みつつ、お客さんにも奏者にも「楽しかった」と言って帰ってもらえるようにしたいね!
まだまだ考えることもたくさんあるし、これから取り組まなければならないこともいっぱい降ってくると思うけど、トラオムらしい本番に向けて着実に進んでいると思うから、最後までしっかり登り切っていきたいね!
吉川 1ヶ月前に「調子のいいことを言ってたな」とならないように頑張りましょう!(笑)
米本 頑張りましょう!(笑)